Diary
・最近貝類に興味を持ち始めている。
・2月下旬に弾丸で東京へ行った。目当ては国立科学博物館で開催されていた「鳥展」である。鳥好きとして行かないわけにはいくまいとの思いではるばる足を運んだのだが、その甲斐のある素晴らしい展示だった。分類学の観点から見た最新の研究成果の系統図や、剥製がずらりと並んだ景色は圧巻だった。
・同じタイミングで常設展の企画スペースにて開催されていたのが、「貝類展」だった。前からなんとなく好きな貝殻だったが、あらためてその美しいかたちに目を奪われた。人の暮らしと貝殻の関係(ボタン、囲碁の碁石、貨幣、美術品..)など、文化的な観点からの貝類の紹介も新鮮だった。イカを捌くときに出てくる透明な一本の骨が貝殻の名残だとはロマンがありすぎる。
・そうして気になり始めた貝類をもっと知るべく、兵庫県にある「西宮市貝類館」に足を運んだ。医師業の傍ら、貝類研究とコレクションに勤しんだ菊池典男が故郷に開いた施設らしい。入場料は200円。こじんまりとした施設ではあるが、様々な貝殻を見ることができる。割とかたつむり推しなのか、陸生貝のコレクションも多く、生きたカタツムリも展示されていた。
・入館時と、出口でアンケートに答えると、それぞれ小さな貝殻をもらえる。貝殻が出てくるガチャポンもあったので一回やってみたらイタヤガイが出た。ガソリンスタンドのシェルのマークにも似た二枚貝で可愛い。
・大阪市立自然史博物館で開催されている「貝に沼る」展にも行った。こちらの展示は日本の貝類学を発展させてきた研究者の観点から紹介する展示で、前述の二つとはまた違う見方で貝類を見ることができる。貝類学は大学の研究者だけでなく、アマチュアの研究者たちも大きく貢献してきたことが印象的だった。
・この展示で初めて知ったのだが、京都にも貝類館があったらしい。しかし資金難でわずか5年で閉館してしまったそうだ。この貝類館を建てた平瀬興一郎の元で奉公していた黒田徳米が跡を継ぐ形で研究を続け、日本の貝類学第一人者となって日本の貝類総目録を完成させたのは熱い。
・貝類学者たちが愛用している採集道具も各々の工夫があってよかった。カタツムリを集めるための湿気たボール箱や仕掛けなど。カタツムリ調査の際に蚊を避けるための黒い全身タイツもあった。こうした地道な研究によって貝類学が発展してきたのだなとしみじみする。
・まだまだ奥が深そうな貝類。海で貝殻を探しに行きたいし、いずれ北海道の蘭越町貝の館や、土佐清水の海のギャラリーにも足を運びたい。まずはもうしばらく貝類の絵を描こうと思う。

・春で気ばかり急いて落ち着きがない。街中で自転車に乗りながら歌っている人間が増えている。
・雨上がりに川沿いを散歩していたら、アオサギが珍しく土手の上まで上がってきていた。しばらく見ていたら足で土を探ってミミズを見つけて食べていた(2匹)。どうやって見つけているのだろうか。

・個展でもお世話になった額縁屋さんに、納品する予定の作品の額装をお願いしていた。出来上がったとの連絡を受けて引き取りに行ったのだが、うっかり持ち帰るための大きな袋を忘れてしまった。そんなに距離もないのでお弁当やさんスタイルで直に持って帰った。桜の花びらが絵の上に積もっていく。
・来年初めに向けて本を準備している。取材をしながら描いているので時間もかかり大変だが、良い本にしたい。心臓がノミなので、初めての取材旅行先で見た夢は荷物を置き忘れる夢だった。取材スケッチの一部をちょろっと。


3月に読み終えた本の一部を並べてみる。
著者やテーマから繋げて読んでいたら、なんだか依存症関係の本が多くなった。たまたま依存症と呼ばれる状態になった経験はないけれど、現在を生きるのが困難な時の生きのびる手段として何かに依存せざるを得ないのは共感できる部分も多くある。「人は依存するもの。ただ、それを病にしてしまうのではなく、様々なコミュニティやものに分散させて、ちょっとずつ依存できるようになるといい」という作中の言葉が印象的だった。
・『死ぬまで生きる日記』 著:土門蘭さん 生きのびるブックス
・『傷の声 絡まった糸をほどこうとした人の物語 』 著:斎藤塔子さん 医学書院
「シリーズケアをひらく」は面白いものが多いので新刊をチェックしている。この本は剥き出しの傷を言語化しようとする試みをしている。読むのが苦しいが、この本を読めてよかった。
・『ヒトとクスリの現代論 誰がために医者はいる』 著:松本俊彦さん みすず書房
・『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』 著:松本俊彦さん 横道誠さん 太田出版
・『校正・校閲11の現場 こんなふうに読んでいる』 著:牟田郁子さん アノニマ・スタジオ
テレビの字幕、地図、レシピとあらゆる現場の校正者と、同じく校正者の牟田さんが対談したもの。分野によって少しずつ違いがあって面白い。私は誤字脱字も頭で勝手に修正して読んでしまうし、校正者という仕事は絶対できない仕事の一つとして憧れがある。
・『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』 著:室橋裕和さん 集英社新書
よく見かける(なんなら店名も似ている)ネパール人がやっているインドカレー屋さん(インネパ)はなぜこんなにも日本で発展してきたのかを取材したもの。なぜネパール料理ではなくインド料理なのか。源流となる店や、コックとその家族、故郷を取り巻く環境。読むと気軽な気持ちでは店に入れなくなるかも。
先日、初めて甲子園で高校野球を観た。
・甲子園駅を降りると、吉野家もいつものオレンジと緑と白のしましまではなく、黄色と黒のしましまに変わっていた。駅前に置いてあるコーンも黄色と黒のしましまである。徹底している。駅前は全国から選手たちの応援のために集まってきた人たちで賑わっていて、さまざまなイントネーションの言葉が聞こえてくる。
・甲子園球場自体も初めて目にした。赤茶色の煉瓦造りの壁に蔦が絡まっている(冬なので蔦は枯れて茎だけだったが)。中に入ると芝生と土のグラウンドが広がり、その上に抜けていくようもポッカリと青空がのぞいている。
・当たり前だが選手一人一人が実在してそこにいて、質量を持って野球をしていることに軽い感動を覚える。学生時代、体力テストにある球を投げた距離の測定で絶望的な数字を叩き出していた身としては、投げた球が放物線ではなく真っ直ぐミットに向かって飛んでいくのが不思議で仕方がない。一体どれだけの練習をしたのだろう。
・今まであまり縁がなかったスポーツ観戦だったがとても面白かった。しかし自分はみんなで声を合わせて応援するのに興味がないこともわかった。声は出したい時に出したい。



一歩でも一塁に近付くべく左打をする選手のほうが多いらしい
・試合が終わるごとに数十人のスタッフがグラウンドを綺麗に整備している。ホースで水を撒く際には、ホースをひきづって跡がつかないように何人かで持っていた。お祭りで龍を操る人のようだ。虹が何度も出ていた。

近頃は割と忙しい気がするが、散歩をしているしよく眠っているのでそうでもないのかもしれない。そんな時期は、リストを作って順番にやっていくことが毎日の出来事になるが、それとは別に日記の端々には、きっと書かなければ忘れてしまうような断片ばかりが残っている。
・少し久しぶりにクロッキー会に参加した。モデルさんのうぶ毛が逆光の光を含み、全身がぼんやりと発光していて美しかった。人間はつるつるなんかじゃない。
・飲食店でご飯を食べていたら、年配の男性が缶ビールを片手に入ってきたのでびっくりしていると店主に「おかえり。」と言われている。どうやら身内らしい。お店のコップを使って飲みながら、店主に「万願寺とうがらしってどんなやったっけ。」と聞いている。ちょうど夕ご飯の時間帯でお客さんで混み始めており、店主も店員さんもとても忙しそうで、どうやっても今聞くべき話題とは思えない。横目で見ていると、「そうだ、ピーマンみたいなやつやな。」と呟いて、するりと店を出ていった。
・雨が上がると太陽の反対方向を確認するようにしている。その日もくっきりとした虹が住宅街から生えていた。多分隣駅のあたりだと思う。

・長崎へ小旅行に行った。長崎へは、池島の炭鉱跡や針尾無線塔、五島列島、壱岐島には行ったことがある。今回の目的は長崎ペンギン水族館とバイオパークだったので、そんなにあちこち回れなかったが楽しんだ。
・長崎ペンギン水族館は、国内でも有数のペンギン飼育数と聞いてからずっと行ってみたかった。そんなに大きな規模の水族館ではないが、それぞれのペンギンの飼育スペースは広々としていて、ペンギンたちがぷりぷりと健康そうだった。
・少人数制で飼育員さんが1時間たっぷりとガイドしてくれるツアーにも参加した。案内してくれた方はベテランの飼育員さんという感じの方で、展示する魚を漁師さんから分けてもらって集める大変さ(ex.ウツボは既にたくさんいるが、いらないとも言えず増え続けている)や、メコンオオナマズという巨大魚をタイまでもらいに行ったときの苦労話など、飼育員さんならではの裏話が聞けた。
・「ペンギンたちの世話をしていると、数年経ったある日突然ペンギンたちに顔があることに気づく。」という話が面白かった。人相ならぬペン相があり、年齢や性別もひと目でわかるらしい。ガイドツアーの整理券番号一番の女の子は持ち物がペンギングッズで固められているガチ勢の子で、そんな話を真剣な眼差しで聞いていた。

・通りがかりに長崎の凧の専門店も覗いてみたら、ハタ職人3代目のご主人が歴史や各地の凧について饒舌に説明してくれた。長崎では凧のことを”ハタ”と呼ぶそうだ。最大の特徴は、青、赤、白(と黒)色で、描画ではなく各色の紙を貼り合わせて作ること。糸はガラス繊維でコーティングしてあり、相手の糸に絡めて切って遊ぶらしい。負けた方は、落下したハタを手放さなければならないそう。厳しい。久しぶりに凧揚げをしたくなった。

・友人のアトリエスペースにて、お菓子を作る会をした。
・アトリエはDIYで殆ど自分たちの手でつくったそうで、コンクリートの床に埋め込まれたガラス片や、FRPで作られた半透明のカウンターなど、隅々までかっこいい。どこかアトリエの持ち主が作る作品の雰囲気がある。
・普段よく自炊をしているが、お菓子は殆ど作らない。みんなでお菓子を作るというのも、子どもの頃以来ぶりだと思う。みんなでエプロンと三角巾をしてわいわい言いながら、今回はガトーショコラをつくった。「卵黄84g、グラニュー糖164g..」と、1グラム単位で刻む計量に、お菓子作りには慎重さが必要だとあらためて感じる。
・オーブンで焼いている間、ちょうど近所の小学生たちの下校時刻だった。アトリエをのぞいていく小学生たちがつるつるの石やハート型の葉っぱを置いて、「また今度寄れる時くるね」と言いながら帰っていった。
・おいしいガトーショコラが焼き上がった。生クリームで一人一台ずつ飾り付けをさせてもらい、それぞれの個性が出たケーキになった。買うものというイメージだったものを自分で作れると、秘密が一つ解き明かされたような気持ちになる。冷蔵庫で待つごほうびを胸に仕事を進めていく。

・タコブネという生き物を知った。同居人から教えてもらった『海からの贈り物』(著:アン・モロウ・リンドバーグ 新潮文庫)の中の一説に出てくるのだが、タコなのに自ら殻を作り(メスだけ)、海面を漂いながら生きるらしい。そもそもタコは貝の仲間だが貝殻を失った頭足類だ。それなのに殻を持つなんて。(しかし厳密にはオウムガイのような貝殻とは成分は異なるため、貝殻ではないらしい。)
・タコブネという名前も素敵だ。学名はArgonauta hians。Argonautaは、金色のヒツジの毛を探して航海したギリシャ神話が由来とのこと。どこまでも詩的。
・そうしてすっかり好きになり、色々と調べているなかで小さな標本を一つ購入した。

・非常に繊細な生き物らしく、捕獲しても数日しか生きられず水族館でも飼育に成功した例はないみたい。日本でも稀に、殻が海岸に打ち上げられることがあるらしいので、いつか出会えることを夢見ながら手元の殻を眺めている。

・展示を見た帰りにスイセンの球根を3つ買う。水耕栽培できるものらしいので、空いているコップを探して並べて水を薄くはる。春が待ち遠しい。
・午後から雪がちらつきはじめた。
鴨川沿いを自転車で走っていたら、中学生くらいの子がひとりおもむろに地面に寝そべって雪を見はじめた。真似をして顔を上に向けると、雪は空から降ってくるということがありありと感じられる。『スティル・ライフ』の雪のシーンを思い出す。
”雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。”
(『スティル・ライフ』 池澤夏樹 著 中公文庫)


ポートフォリオサイトをリニューアルした。
今までは、数年前にwixを使って自分で制作したWEBを使用していたが、ガザ侵攻に対してのwix社の対応(イスラエル政府を批判した社員を解雇するなど)に疑問を抱き、一年近く前から移行のために準備してきた。
加えて、使っている各SNSのプラットフォームが変化していく中で、拠点となるWEBを整えたいという希望もあった。
今回、ポートフォリオサイトのデザインをお願いしたのは、みふくデザインさん(https://mifuku-design.com/index.html)だ。
京都近辺のウェブデザイナーさんを調べる中で、他のイラストレーターさんの素敵なホームページの作例を見てお願いすることにした。ホームページ制作を依頼したのは初めての経験だったが、今後どのように活動していきたいか、依頼主の視点での使いやすさはどうかなど、自分にはなかった視点から様々ご提案いただいた。その結果、とても良いポートフォリオサイトになり、お願いしてよかったと心から思っている。ひとのちからを借りるっていいですね。
大きく変わったところは以下の3点。
●仕事の案件ごとに表示
以前は、装画、挿絵といったカテゴリーごとにばらばらに表示されていたが、案件ごとにまとめて表示することにした。複数のイラストを納品している仕事も見やすくなったと思う。

案件ごとに表示
●タグ機能の追加
カテゴリー(装画、挿絵、アニメーションなど)に加えて、タグ機能を追加していただいた。これにより、たとえば「児童書」タグで児童書関連の仕事を一括して表示できたり、「植物」や「生き物」タグでモチーフが近い過去作品を一望できるようになった。この機能は自分でも過去の作品を振り返るのに便利そうで、使っていくのが楽しみ。

タグは各案件のページの一番下に表示される

例えば、タグ「児童書」を押すと、児童書関連の案件が一覧で表示される
●日記
新たに日記を追加した(ここのこと)。10年くらい、ほぼ毎日日記を書いている。ほとんど読み返さず定期的に捨てていたが、その一部を公開してみたらどうだろうという考えが以前からあった。誰にも見せない日記とは違うのでどのくらいの頻度で更新できるかはわからないが、制作日記や日々のスケッチ、読んだ本の感想など気ままに書きたい。
インターネットの海に自分の島のような場所ができてうれしい。
仕事も日記も日々追加していくので、ぜひ時々遊びにきてください。